ドアをノックするのは誰だ? ①
悪魔というのは大概にして音もなくそーっとやって来て、心の少し弱っているところに棲みつくのだ。
かわいい小悪魔もまた然り。アポイントもなくやって来た。
そして現在、あの子たちは私の心の中に居候中だ。
これは2013年の話になる。
恋を終わらせたばかりの私は年明けからすでにボロボロだった。
寒い冬が終わって、やっと春が来てもまだ日が沈めば肌寒い夜だったか。
なんとなくつけていたドラマに目を向けた。そこにいたのは野球のユニフォームを着た、暖かい陽だまりのような男の子だった。
きれいな男の子だな。新人の俳優さんかな。
すぐに出掛けなければならなかった私がそのドラマを観たのはほんの10分ほど。
しかし名前も知らないその男の子は、まず手始めに10分で私の心に陽だまりをこさえたのだ。1人目の小悪魔がやってきた。
梅雨の真っただ中だったか。
朝テレビをつけるとついに陽だまりの小悪魔の名前を知ることとなった。
もうすぐこの子が主演のドラマが始まるという。そしてもうひとつわかったこと。
この子は新人の俳優ではない。アイドルだったのだ。
愕然とした。アイドルというものにまるで興味がなかった私が、このボーダーラインの向こう側に足を踏み入れることはない。ありえない。はずだった。
しかし時すでに遅しだ。私の片足はその向こう側に突っ込んでしまっていたようだ。
主演として登場するこの子のドラマを観たのは真夏のただ中だった。
初めて見た野球部員の時とはだいぶ役としての身なりが変わってはいたが、それでもどういうわけか私には、この子から春の陽だまりの印象が抜けなかった。しかし、それだけではないような気もしたのだ。不思議な子。
そう。不思議だったのだ。正直申せば、初めてその姿を見た時もさほどインパクトがあった訳ではない。
だがしかしこの小悪魔は、たった10分でその魅力のつぶを人の心に残してしまう子。不思議だ。
まだ何も知らない私は、その向こう側に突っ込んでしまった片足を引っ込めることもできず、かといってこちら側に残したもう片方の足をどうしたものかと立ち往生していた。
しかしこの後、偏見と残念なプライドを持ち合わせていた私のもとに2人目の小悪魔がドアをノックしにやってくるのだ。