花のような君

忘れられないひとがいる。

 

高2になったばかりの頃、私は1つ年上のその彼女を

とても嫌っていた。

理由は1つだけ。私の憧れの先輩の、彼女だったからだ。

学校で、2人が仲良く歩いている場面に遭遇するたびに

わたしはぷうと頬をふくらませて、下を向いた。

嫉妬だ。

 

ある日、私は彼女に意地悪をした。

 

友達とのジャンケンに負けた私は、お昼休みに4人分のジュースを買いに

1階に下りた。

そこには、自販機の前で一人ジュースを選ぶ彼女がいた。

後ろに並んだ私に、彼女は少しはにかんだ顔で

お先にどうぞと譲ってくれたのだ。

私は会釈もせず、4人分のジュースを買ってまた階段に向かった。

すると、2つのジュースを手に持った彼女が小走りでやって来て、

なぜか私の横に並んだのだ。

無言で階段を上る私と彼女。

 

イライラした。離れてほしかった。

私は、持っていたジュースを落としそうになるフリをして、

わざと彼女にぶつかった。少しばかり怒らせたいと思ったのだ。

しかし彼女は、蚊の鳴くような声で一言

「いたい」

そう言っただけだった。

私は自分の悪態をすぐに後悔した。

再び並んで、階段を上る私と彼女。

彼女の教室がある3階にたどり着くあと数段のところで

「ごめんなさい」

私も蚊の鳴くような声で、謝った。

すると彼女は

「うん。大丈夫。」

太陽の光をしっかり浴びて咲いた、花のような笑顔を向けてきたのだ。

この一瞬で、彼女の魅力を思い知らされた。

愛らしく、花のような笑顔を持つ彼女に、敵うわけがないということを。

 

彼女は気づいていたのだろうか?

2人とすれ違う度に、ぷうと頬をふくらませて下を向いていた私の気持ちに。

それは彼女にしかわからない。

ただあの時、あの一瞬で私は、

彼女の花のような笑顔に、完全にやられてしまったのだ。

 

そして長い年月を経た現在も、その花は私の記憶に咲き続けている。

いつか私も、だれかにとっての

花のような君になりたいと思う。